私が、
成人精神科から、
救命救急センターに異動になたっ時、
私と同様、
異動で救命救急センターに来た看護師が、
3人居ました。
そのうちのひとりが、
准看護師のTTさんでした。
系列病院からの転勤で、
自ら救命救急センターを、
希望したそうです。
看護師の配属希望を、
上(看護部)が叶えた、
珍しい例でした。
ただ、
TTさんは、
救命救急センターの仕事は、
楽だと、
「勘違い」
していたそうです。
しかも、
最初から、
救急外来を担当できると、
これまた勘違いしていました。
TTさんの仕事ぶりはというと、
まあ、
あまり芳しくないものでした。
救命救急センターに来る前は、
系列病院の、
普通の外来に勤務していたそうです。
正直に言えば、
一般外来や、
慢性期の病棟のほうが、
TTさんの能力を、
発揮できてたように思います。
1年間だけ、
救命救急センター一般病棟セクションで、
一緒に働きました。
救命救急センターの中堅どころ、
30歳前後の看護師から、
相当キツイツッコミをされていましたが、
自分の能力をわかっているからか、
反論することはありませんでした。
あそこまで、
キツく言うことはないと思いましたが、
それをうまく受け流すのも、
ある意味、
経験がなせる技なのかもしれません。
そういうところは、
学ばせてもらいました。
「技」
というよりも、
TTさんの、
元々の人間性によるところかもしれません。
こんなエピソードがあります。
救命救急センターでは、
当時、
日勤→準夜のみ、
ちゃんとした、
申し送りが行われていました。
普通なら、
それこそ近畿中央病院では、
メンバーがリーダーに申し送りをして、
それをまとめて、
リーダーが、
夜勤者に申し送りをしていました。
しかし、
救命救急センター一般病棟は、
患者の数が、
満床で18人と少ないので、
メンバーが直接、
受け持ち患者の申し送りを、
準夜勤務者にしていました。
TTさんが、
準夜勤務者の申し送りをした時、
わかりにくいところがあったので、
準夜勤務者が、
TTさんに聞き返しました。
すると、
TTさんは、
「知らん」
と返したのです。
普通なら、
あり得ない返答です。
普通なら、
「わからないので、調べてから答えます」
とでも、
答えるものです。
そう言えるのは、
この人だからこそだと思います。
この時、
準夜勤務者も、
「TTさん、それはないでしょう」
と、
注意をしていましたが、
私が同じことをしていたら、
もっと強く怒られていたと思います。
TTさんは、
大阪弁で言うところの、
「ごまめ」
として、
認識されていたのかもしれません。
そんなTTさんですが、
特技がありました。
散髪が、
異様に上手なのです。
救命救急センターの患者は、
意識のない人も多く、
入院が長期に渡る患者になると、
髪は伸び放題です。
私たちも、
何とかしてあげたいのですが、
散髪のスキルがなく、
困っていました。
すると、
TTさんは、
こざっぱりとした髪型に、
散髪することができるのです。
もっとも、
誰にする時も、
同じ髪型ですが。
男性ならこの髪型、
女性ならこの髪型というように。
それでも、
できないよりは、
はるかに良いです。
TTさんを、
一言で表すと、
「大阪のおばちゃん」
そのものです。
救命救急センターに来る前の、
系列病院の外来では、
患者のことを、
「様」
付けで呼ぶようになっていました。
TTさんも、
それに従い、
「~様」
と呼んでいました。
しかし、
そのあとが、
TTさんらしいのです。
「~様、あんた、これやっといて」
「~様」の意味!
という話です。
でも、
これは、
TTさんの人柄を、
みんな知っているからこそ、
許される話でしょう。
こんな、
エピソードがあります。
最初働いた病院では、
年に何回か、
組織全体、
つまり、
系列病院全体で、
集まることがあります。
私も、
何度か参加したことがあるのですが、
TTさんは、
そこら中から声をかけられるのです。
人気があるというか、
TTさんの人柄を、
うかがえることです。
単に、
在籍が長いだけという見方もありますが、
それだけでは、
そうはならないと思います。
TTさんは、
その後10年間、
救命救急センターで勤め上げ、
定年退職を迎えました。
盛大な、
送別会が、
催されたそうです。
ピリピリしがちな救命救急センターにおいて、
TTさんは、
ある種、
「癒し」
になっていたのかもしれません。