私が、
かつて在籍した救命救急センターは、
その特殊性から、
犯罪に関係した患者が搬送されてくることも、
珍しくありませんでした。
私が、
2年目で救命救急センターに異動になって、
そんなに間がない頃、
朝仕事に行くと、
まず、
救命救急センターの院内の出入り口に、
制服の警官が居ました。
そして、
当時の私の所属セクションであった、
救命救急センター一般病棟に行くと、
詰所に一番近い部屋に、
フィリピン人の女性が入院していました。
カルテによると、
その人は、
不法滞在で、
夜の飲食店(フィリピンパブ的なところ)で、
働いていたようです。
いわゆる、
「ジャパゆきさん」
です。
摘発されて、
逃げた際に、
高所から転落。
ろっ骨を多数骨折して、
救急搬送された次第。
約25年前のことなので、
うろ覚えのところもあるのですが、
その日その患者は、
私とペアを組んでいた人が担当していたと思います。
ですから、
清潔ケアをする時は、
本来私も一緒にするのですが、
その患者は女性で、
意識はしっかりしていたので、
私は遠慮しました。
片言ながら、
日本語を話すことができましたが、
仕事柄か、
日常会話というよりも、
その世界の言葉のほうが、
得意だったようです。
入院中は、
逮捕できないという、
治外法権的なことがあるので、
救命救急センターの院内出入口のところに、
警官が24時間詰めるという状態が、
退院の日まで続きました。
その任に当たっていた警官は、
時々居眠りをするような輩ばかりで、
「おそらく、署内で一番役に立たない者をよこしているのだろう」
と思ったものです。
しかし、
救命救急センターの医師によると、
以前は窓を開けて逃走した者も居たそうで、
救命救急センターの出入口に詰めているだけでは、
単なるポーズにしか思えませんでした。
それは、
現実のものとなります。
私が休みの日に、
件の患者は退院の日を迎えました。
病院の出口を出た瞬間、
待ち構えていた警察官が、
逮捕する手はずだったらしいですが、
それにもかかわらず、
逃げられてしまったそうです。
その話を聞いて、
「何やっとるねん」
と思いました。
この結果から逆に、
救命救急センターの院内に、
警察官を配置していたのが、
単なるポーズだったと、
言わざるを得ないのです。
「自分たちは、精いっぱいのことをしていたが、逃げられてしまった。しかたがない」
という、
言い訳のためです。
勤務中に居眠りをするような、
役立ちそうにない人員を配置しておいて、
何を言っているんだという話。
結局、
捕まえる気などなかったと言われても、
しかたがないと思います。
まあ、
本来入国管理局の仕事だから、
警察としては、
本腰ではなかったのかもしれません。
日本の、
公官庁の、
悪いところが出たのです。
自分たちのメンツのためだけに働いて、
他のとこころとの連携をはかろうとしない。
これは、
太平洋戦争の頃と、
なんら変わらない、
日本の悪しき伝統だと思います。
結局、
そのフィリピン人が、
どうなったかはわかりませんが、
逃げ延びることは、
到底むりでしょうから、
どこかのタイミングでみつかって、
フィリピンに、
強制送還されたのではないでしょうか。
余談ですが、
この患者、
ろっ骨を多発骨折したとのことで、
胸全体に、
コルセットを巻いていたのですが、
それを何度巻いても、
中の綿をむしって破壊するなど、
問題行動が続きました。
年齢で言えば、
私より少し年下。
今、
40代なかばぐらいでしょうか。
いずれにせよ、
幸せな人生を送っていることを願います。
そして、
警察には、
ポーズだけでなく、
きちんとした手順を踏んで、
的確な対応をしてもらいたいものです。
自分たちのメンツを守るためでなく、
市民を守るのために、
ひいては日本という国のために。